「実用呉服は復活するか?」

男のきものは、きもの全体の中でシェアが5%にも満たないそうですが、 数字のことは、現在のきものビジネスの在り方が、そのまま反映されてい るに過ぎないと思います。つまり、男のきものは未だに全体の中でのビジネス対象となっていないのではないでしょうか。

きもの全体を普及させるための最大のキーワードは「実用呉服」の復活だと思います。 「普及」ではなく「活用」を促進させるのが目的なら定義は変わります。つまり、それだけでよいなら、現在の着物販売の現状をひたすら維持できれば良いのかも知れません。しかしながら「普及」となると、そうはいきません。前にも書きましたが、少なくとも、呉服業界側からの消費者へのお願いや説得という行為が主体では、到底「普及」は望めません。利用者自らがきものを活用する意思を持たない限り、本当の普及は実現できないでしょう。「普及」に関するこうした話は、何もきものに限った話ではありません。

ところで、実用呉服と呼ばれるジャンルのきものは、果たして復活させることが可能なのでしょうか?これを復活させるのは容易いことではありませんが、少なくとも、商品としてのきもの自体を見直すことが必要と思われます。これも前にも書きましたが、個人消費者を販売対象とする商品であるならば、高級品一辺倒でなく、やはり実用性のあるの商品の存在が必要不可欠だからです。どんな商品もマニア受けするものばかりを提供し続けていたのでは、マーケットのパイは広がりようがありません。きものも、衣料品として捉えるならば、単純に「服」としての魅力を消費者自らが感じ取れるような商品が必要なことは確かです。そうした商品となりうるもののひとつが、たとえば実用呉服ではないかと思うのです。いずれにせよ、こうした身近なジャンルの商品の存在が、結果的にきものビジネス全体を左右することになると思います。

実用性という意味では、実は男性の着物の方が復活のチャンスがあるように思えます。
きものの形状、着付けが女性に比べてシンプルなこと、日本人男性の多くは、きものにある種の憧れを持っていることなどが背景にあり、きっかけさえあれば、きものに袖を通したいと思っている男性が増えているからです。作務衣や浴衣の人気が衰えることがないのも、そうした表れのひとつと言ってもよいでしょう。

また、
神社仏閣などで働く僧侶向けの和装品に、非常に安価な実用品が多いことも可能性に期待が持てる根拠の一つです。 実際、こうしたユニホームとしての着物や、神社仏閣で働く人用の装束類は、一般の呉服店で扱う商品とは全く別物として扱われているようですが、形状はきものそのものです。 中には、もちろんミシン仕立てですが、たとえば単の仕立てあがりで8500円、 13000円などの販売品が存在し、日常着としての用途には必要十分なものです。こうした商品が、なぜ市中の商店では購入できないのでしょうか。こういうジャンルの商品がないと普及は本当に難しいと思います。

もうひとつ、忘れてはならない事実があります。それは現代においても日本全国の旅館やホテルでは、そのほとんどがナイトウェアとして浴衣や丹前を用意していることです。ゆったりくつろぐときの最適な衣服として、きもの形状の服が選択され続けている事実は、日本人がこれを手放せない何かを、暗黙に認め合っていると言えなくはないでしょうか。このような、業務用途のきものの存在を考えて見るだけでも、「実用」というキーワードの重要性を感じずにはいられません。

和服は本来もっと幅広く利用されてしかるべき要素を持つ衣服なのですから、
もっともっと、高級呉服だけが和服ではないということもPRすべきだと思います。 まず第一に「衣服」とか「衣類」として和服を捉え、きもの業界のビジネスを広げてもらうことが、きっと我々きものを着る側にとっての福音につながることでしょう。




1999年7月25日 掲載
    
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