着物を着るという行為
和服は未完成の衣服です。人の体に合わせて立体的に裁断し作られる洋服と違い、和服は直線デザインの衣服です。着る時に人の体に合わせて纏う、「着付け」という行為を経て初めて完成された衣服となるのです。したがって、「和服を着るという行為」は、和服という衣服のデザインの一部であるとも言えます。
洋服の場合は、仕立てる時点でデザインは完成されていますから、着ればそれまでです。ところが和服は衣服自体が未完成デザインの状態ですから、「着付ける」という行為が非常に重要な役割を持つことになります。和服は、着るごとに自由にその完成時のデザインを変えることさえ可能な、非常に柔軟性のある衣服なのです。従って、着慣れないうちは、直線裁断の布を、曲線のある身体に纏う方法がわからず苦労しますが、着慣れて来ると、同じ着物を「自在に着こなす面白さ」というものも味わえるようになります。こうした事実が、日本は世界で唯一、自国の衣服の着付け学校が存在する国である理由だと思われます。
言い方を変えると、和服というのは、物理的なデザインの形状が、ほぼどれも同じであるにも関わらず、着方ひとつで苦しくもなり、心地よくもなり、粋にも野暮にも見える衣服なのです。
このように、和服を着るという行為の意味を知り、和服での生活を始めると、日本の多くの習慣や礼儀作法のほとんどが「和服を着ていること」を前提としたものだということにも気づいてきます。
ではなぜ、和服は直線的なデザインなのでしょうか?日本の織物は構造的に平織り繊維なので、曲線裁断には向いていなかったことがその主な理由のようです。しかし都合のいいことに、こうした形状の和服には、あちこちに無駄な空間が自然とできること、重ね着が簡単なことなどから、熱や空気の出入り等を洋服よりも簡単に調節できるため、結果的に非常に合理的に寒暖の調節が可能な機能的な衣服なのです。これらのことが日本の風土に適したものだとは、よく言われる事実です。
男物の和服の場合は、女性ほど着付けも面倒でなく、慣れると簡単なものです。また、ちょっとしたコツさえ覚えれば、一日着ていてもそれほど着崩れることもありません。私などは、普段着の和服に着替える程度なら、ワイシャツを着てネクタイを締め、スーツを着込むよりも手早く終えられます。
このページで和服の着付けのポイントを覚え、自分なりに工夫して身体に合った着こなしをマスターして下さい。そのためには、まず第一に自分の体型をよく知ることが必要です。このホームページでは補正の方法については詳しく触れていませんが、体型に合わせてきちんとした補正を施すこともやはり着付けの一部です。もちろんそれらの前に、身体に合った寸法の和服を手に入れる必要があります。
和服は人の体にあわせて着付けるというプロセスなしでは着られない衣服です。自分の好みや肌にあった着心地をモノにするには、どうしても自分自身で着なければなりません。自分に合った着方でいれば、一日中着物で過ごしても平気でいられます。男のきものは慣れれば着るのは本当に簡単です。何度も着れば自然と身体が覚えてくれますよ。