正装・礼装

和のフォーマルウェア

現在広く一般に説かれている、和装に関する多くのキマリゴトの類は、ほとんどが礼装・略礼装、つまりフォーマルな場での和装に対してのものであると言えます。それらの説明が全てのジャンルの和装に当てはまるなどと考える必要はありません。ただし、逆に本当にフォーマルな和装を身に付ける場合であれば、これらの知識も必要になってきます。このホームページでは、日常着としての和服を中心に取り上げていますが、そうした意味で、礼装についても一通りの解説をしておきたいと思います。自前で黒紋付羽織袴を所有している方は少ないことと思いますが、いざという時、お役に立てば幸いです。

なお、和装では、必ず紋入りであることが礼装・略礼装であるときの絶対条件となります。礼装とは、以下に示す五つ紋の第一礼装とされる場合がほとんどですが、略礼装では紋の数に関わらず、紋さえ付いていれば略礼装として認められるのです。例えば、羽織りの背中に一つしか紋が付いていなくても、これは立派な略礼装であると言えます。ただし、祭事や伝統関係の集まり事などで、厳格に紋の数の指定や服装についての規定が古くから決められている場合も少なくないので、そういう場所で着用する場合は十分注意しましょう。

第一礼装(正礼装)

祭や伝統行事などを除くと、現在ごく一般的な人がこの第一礼装を着るのは、結婚式の新郎、その父親や仲人、成人式や大学の卒業式といった公の式典の席など、かなり改まった場合に限られるものと思われます。しかしながら、この和の正装姿は非常にカッコ良く、魅力的ですから、自前の一着を揃えておきたいと願う方も少なくないのではないでしょうか?

黒羽二重、染め抜き五つ紋付きの長着と羽織に仙台平の袴をつけた服装が第一礼装と呼ばれる、男性の和装において最上の格の着物です(これは一般に民間における服装の場合です。皇族の方々などは現在も異なります)。男性の場合、これを喪服にも用いますが、細部は地方によっても習慣が異なるようです。正確には以下のリストを参照して下さい。

  • 長着と羽織は、白地の羽二重を黒に染めたものを用います。礼装の和服は男性の和服の中でも数少ない染めのきものです。なお、夏は絽の着物にします。
  • 紋は日向紋に染め抜いたものが正式で、紋の数は最高の五つ紋です。家紋は通常自分の家の紋を使いますが、正確にわからない場合は、現在は自分の好みのデザインの紋をつけても問題ありません。
  • 地域の慣習によっても異なりますが、現在は黒紋付の長着を「比翼仕立て」にするのは一般的ではありません。
  • 羽織の裏は新郎のみ白無地羽二重が正式で、それ以外なら色羽二重か絵羽模様などの額裏を使いますが、今はあまり拘ることもないでしょう。
  • 羽織の紐は駕篭打ち(平打ちは本来代用品)で慶弔共に色は白を用います。
  • 袴は仙台平の縞柄で、紐は十文字に結びます。好みもありますが、一般的に若い人は太目の縞、年配なら細めの縞などどされるようですが、太い縞は野暮ったいので成人男性なら細めの縞にした方が無難です。
  • 袴の仕立てには馬乗りと行灯がありますが、馬乗りの方が見た目も格好よく裾さばきも楽です。なお、夏は絽の袴にします。
  • 帯は博多や西陣などの角帯で、無地か紋織、献上柄の薄い色を締めます。夏は絽や羅などの夏帯を使います。
  • 長襦袢は白羽二重か色羽二重(夏は絽や紗)で派手な模様は使いません。半衿は塩瀬羽二重の白にします。
  • 足袋は白足袋です。喪服の時はいずれもグレーか黒にするという意見もありますが、慶弔共に、半衿、足袋はいずれも白を合わせて問題ありません。素材はキャラコ木綿が一般的ですが、礼装用には羽二重のものもあります。
  • 履物は畳表の草履で、一般に慶事には白鼻緒、それ以外は黒鼻緒とします。裏に金属の鋲などを打ち付けてある雪駄は、慶弔共に式服では用いません。
  • 最後に、四季を問わず竹骨の白扇(はくせん)を必ず持ちます。この扇子は開いて使うことはしません。

略礼装

略礼装は第一礼装以外の服装でよい、パーティーやお茶会、友人の結婚披露宴など、何らかの紋服(羽織だけでも)が必要な時に着るものと考えていいでしょう。長着に紋がなくても羽織に紋が一つ以上ついていればたいてい大丈夫ですが、お茶席など羽織を着ない正装もありますので、その場に応じた服装を心がけましょう。

長着や羽織の素材は、格式の高い順に「色羽二重(黒以外)」→「お召」→「紬」の順となりますが、よほど格式を必要とする場でなければ気軽に取り合わせればいいと思います。紬については、昔から普段着扱いとされていることから、高価なものでも礼装用には不向きとする説明が今も聞こえていますが、現在ではその場に相応しい色柄であれば問題ないと考えます。なお、お召の場合は長着と羽織の色を少し変えるのがおしゃれです。紋は三つ紋か、背に一つの一つ紋ですが、格式ばらなくていいなら、羽織の背にだけ一つ紋の縫い紋をつけたものがあればいいでしょう。袴は仙台平か無地のお召または紬の袴を好みで合わせますが、着物と袴の生地の質感を含め、見た目のバランスが悪くなければ袴の種類にこだわらなくても大丈夫です。紋のついた和装の時は白足袋としますが、半衿や帯、羽織紐などの色は、着物に合わせてコーディネイトしてみてもいいでしょう。色合わせが難しければ半衿と足袋を白にしておくとぐっと礼装っぽくなります。夏は長着、羽織、袴ともに絽や羅、紗などの素材のものを着ます。

 

男性の喪服について

弔問時の和装の一例

男性の和装では、喪服の場合も第一礼装と同等であるとされるのが一般的ですが、実際には喪主以外では大袈裟なため、選択に躊躇して洋装にするといった方も多いようです。実際には、喪主でなく参列者としての弔問の場合は、必ずしも黒紋付である必要はありません。また、袴も必須ではありません。季節に応じた黒の紋羽織さえ合わせれば、着物はお召しでも紬でも、紺や黒、濃い鼠など、ちょっとダークな色合いの地味系な着物であれば何でもOKです。微妙に明るめな色の場合は、角帯だけでも暗めのものにすれば、控えめな印象になります。半衿や羽織紐も白でなく、グレーなど黒っぽいものにします。足袋は白足袋でも構いませんが、目立つようなら、黒や紺足袋を履くとよいでしょう。履物は爬虫類などの動物皮や光沢のあるエナメルなどを避け、着物や足袋に合わせた暗めな色のものが無難です。つまり、葬儀に相応しい色合わせさえ考慮すれば、普通の着物でもよいのです。法事や葬儀に参列する機会が比較的多い立場の人であれば、夏冬一枚ずつの黒の紋羽織さえ用意しておけば、いざという時に役立つことと思います。