長着

長着 

普通に「着物」といえば、本来は「長着」のことをいいます。「きもの」は和服全般のことを指すときにも使われる言葉ですが、和装アイテムのひとつを示す場合は「長着(ながぎ)」のことをいいます。要するに、足首まで裾のある丈の長い着物のことですが、羽織や長襦袢を長着とはいいません。

男物のきものは、女物のように「おはしょり(きものの身丈の余りを腰の所でたくし上げて着ること)」をして着ないので、着たらそのまま足首までちょうどいい寸法になっています。つまり、男物は着丈(帯を締めて着付けた状態の裾までの長さ)と身丈(着物を仕立てた時の長さで、肩山から裾までの長さ)がほぼ同寸となっており、これを「対丈(ついたけ)」と呼びます。女性のように、着る時に端折る代わりに、余った布は「内揚げ(うちあげ)」といって、内側にタックを取るようにして折り込み、縫い付けて仕立ててあります。この内揚げの縫い目は、体型によりますが帯を締めた時隠れるようになっています。これは将来着丈を長く仕立て直したり、擦り切れた裾を切って縫い直す時などに使用します。女物との違いは他にも、衿は狭衿(せまえり)だとか、袖の付根の身八つ口は縫いふさいであるとか、裏をつける時は通し裏にすることなどがあります。

仕立ての時の注意や工夫について

きものはよく三代着れるなんていう呉服屋さんもありますが、やはり体型が大きく違うとそのままでは着れません。三代とも同一身長、同一体型という人はまずいませんから、この言葉は要注意です。初めて着物を仕立てる時にきちんと自分の体のサイズを採寸してもらい、きちんとその数字を保管しておきましょう。多少太ったりやせたりしてもそれをもとに加減ができますので(勿論子供や成長期は対象外ですが)。

しかしながら、私のように大柄な男性(身長184cm、体重76kg、ウエスト90cm)だと和服を買うにも苦労します。反物はまずキングサイズと呼ばれる広幅(最低40cmは必要)でなければ裄や身幅が足りませんので、古着は滅多にありません。特にアンティークな昔のきものは裄や身幅が極端に狭いので論外となります。とにかくまずは、自分の体型をよく知ることが先決です。

まず、着丈の長さは、足の踝(くるぶし)がちょうど隠れる位がベストです。好みでこれより短めに着たり長めに着たりもするようですが、あまり極端だとやはり見た目もおかしいし、着ていても落ち着きません。ちなみに丈が短すぎるのを「つんつるてん」、長すぎるのを「ぞろっぺえ」などどいいます。特に角帯を締めると、どうしても若干裾が上がりますし、お腹の出ている人はその分布が長めに必要です。したがって、着丈=身丈とするよりも、最初はちゃんと寸法を計ってもらい、着丈よりも2~3cmくらい長めに仕立ててもらうといいと思います。

身幅も着丈と同様に体型によって大きく左右します。これは身体の横幅の問題ですが、同時に袖の長さにも影響します。例えばウエストが90cmくらいだと身長が低くてもキングサイズの反物でないと身幅が取れないかも知れません(なぜか広幅の反物は「キングサイズ」と呼ばれています)。ウエストは細くても手が長いとやはりキングサイズです。着付ける時に多少の身幅の余りならきれいに始末も出来ますが、背縫いを中心に両脇の布があまりにだぶついてしまうようでしたら、やはり身幅を細く仕立て直した方がいいでしょう。

衿も男物は狭衿で、普通は衿幅の指定まで仕立てる時にしないと思いますが、首が太い人は、襟幅を太めに仕立てると、対照的に首筋が細く見えますし、逆に首が細い人は、襟幅を細めに仕立てると、対照的に首筋の細さが目立たなくなるものです。こういう仕立ての相談ができる呉服屋さんと知り合いになるとあとあと助かります。

裏地について

ウールのきものや夏物のきもの、浴衣などは全て裏地を着けない単(ひとえ)仕立てですが、これら以外のきもの(広くは正絹のきもの)は全て裏地をつけた袷(あわせ)仕立てとします。男物は「通し裏」と言って、裏地には上から下まで同じ一枚の布をつけますが、女物は胴裏(どううら)と八掛(はっかけ)とに別れた裏地を使います。八掛というのは、袖口と裾に用いる色物で、裾廻しとも言いますが、男物も通の人は女性と同様にこの八掛と胴裏にしている人もいます。胴裏地にもキングサイズというのがありはしますが、一反の胴裏地で足りない場合は、二本の胴裏地を使うより裾廻しを使った方が安上がりな場合もあります。

ところで女物は裏地も全て正絹の布地ですが、男物は羽二重の紋服などを除き、表が絹でも裏は木綿の胴裏地を使うのが慣習?のようです。この木綿の男物の通し裏は、「正花(しょうはな)」と呼ばれるもので、紺の細番手の花色木綿という木綿が使われます。下の写真が典型的な正花を使った袷の長着ですが、色は紺の他に茶や鼠などもあります。なお、紋服でなくても正絹の通し裏地はありますが、木綿の裏地の倍の値段ですし、長く着る着物に使うなら木綿の方が格段に丈夫です。こうした袷の着物は普通下に長襦袢を着ますから、裏地の肌触りに拘ることもないように思います。あとは好みと予算で選ぶといいでしょう。

袷の長着
下の写真はごく普通の普段着として着ているウールの長着ですが、お尻のあたりの背縫いが破れにくいように裏に補強をしています。本来ウールは単の着物ですが、居敷当を大きくつけたり、下の写真のように裾まであるような補強用の裏地をつけることもあります。この白い布は、女性の胴裏の余り切れをつけてもらったのでほとんどタダでした。胴裏は正絹なので滑りもよく、補強としてこうした布を付けていない着物に比べ、格段に丈夫です。ちょっとしたことですが、仕立てる時にこうしたことを、都合や好みに合わせて頼むと長持ちする普段着になります。

裏に補強をした長着この他にも、懐にポケットをつけてもらったり、裾が汚れにくいように裏に共色の布テープを縫い付けてもらったり、いろんな工夫が考えられます。

  

仕立て代について

長着の仕立て代は着物の素材や仕立て方、お店によってまちまちなので、あくまで参考としての値段ですが、大体次のような値段が相場だと思います。以下は国内の仕立屋さんに手縫い仕立てを依頼した場合で、ミシン併用の場合や海外縫製の場合は概ね以下の値段よりも安価になります。ただし、これより高い場合も、一概に相場でないとは言えませんのでご了承下さい。和服の仕立ては信用ですが、極端に安い場合は恐らくミシン仕立てのものと思われます(決してミシンが悪いわけではありませんが、高級な反物では利用されないのが普通です)。結局は人件費なので値切ることも出来ないと思います。だから、一反3900円とかの反物を買っても自分で縫う以外、こうした費用は覚悟しないといけません。

  • 長着・・・・・・・・・・・・・・・・25000円~45000円前後
  • 羽織・・・・・・・・・・・・・・・・23000円~43000円前後
  • 袴・・・・・・・・・・・・・・・・・35000円~45000円 前後
  • 長襦袢・・・・・・・・・・・・・・・18000円~25000円 前後
  • 仕立て直し(身丈を伸ばす場合)・・・12000円~15000円 前後
  • 仕立て直し(身幅をつめる場合)・・・15000円前後
  • 仕立て直し(裄の寸法直しなど)・・・10000円~13000円 前後