黒紋付きは買うべきか?

 黒紋付の必要性

もちろんこれは個人の自由なのですが、ことに、「結婚式の衣装としてのみ利用することが目的で新調すべきか?」という問に対して、私なりの意見を述べてみることにします。

きもの好きの男性の中には、紋付羽織袴に憧れている方も多いことと思います。もちろん私もその一人でした。和服を初めて着るようになった頃から、一度は自前の紋付を誂えたいと思っていたものです。その願いは、結婚することになった時、貯金をはたいて自分で無理矢理叶えたのでした。

画像の家紋の名称は
「五瓜(ごか)に木の字」
一般の家紋帳には載ってい
ないので珍しい紋かも知れ
ません。ちなみに、外周の
図案は瓜を割ったものをデ
ザイン化したもの。

それでも、黒羽二重の紋付羽織袴は、着ているだけで気分がよいもので、自分で勝手に男冥利に尽きてしまうほど魅力的です。他の素材に比べ、上等な羽二重ほど生地の重さを感じますが、そこがまた重厚感があり魅力でもあります。家紋を入れた紋付袴の一揃えは、経済的な余裕さえあれば、誂えておきたい着物ではあります。

ところが、私のようにお茶もやらないサラリーマンでは、自前で誂えても、はっきり言って結婚式以外着ることはありません。私の持っている紋付袴も、自分の結婚式の時に着たきりで、このHPの画像のためにわざわざ着たのが、それ以来初めてのことでした。 ほんとはお正月に着たっていいんですけど、訪問袴などは穿いても黒紋付まではさすがに着ることはありません。

とにかく用途次第ではありますが、およそ普通の人の場合、毎年黒紋付を着る機会のある方は、やはり伝統的なお稽古事などに従事なさっている方や、武道をなさる方くらいだと思われます。また、一般的にはさすがにお葬式に黒紋付で出席される男性はいないようで、これは私も経験ありません。

そんなわけで、稽古事などで着る機会が多いとか、経済的に余裕があるなら別ですが、さほど拘りがなければ、結婚式で着るためだけに新品の紋付を誂えようとお考えであれば、やはりレンタルをお薦めします。なぜなら、黒紋付の一揃えを作るなら、普段着と外出着を2枚以上作れますので。あるいは濃紺などの色紋付にするという手もあります。色紋付の方が、先々での利用を考えると着用する機会は多いかと思います。ちなみに費用は、一揃いで50万前後くらいは覚悟しておいた方がよいでしょう。その他にも、古着を利用するという手があります。古着であれば、一揃えしても、レンタルするよりかえって安くつきますから、新調の拘りさえなければ、こちらもお奨めです。

ところで、私が結婚式のために誂えた紋付には、実はもうひとつの忘れ得ない思い出があります。それは、ある大手Sデパートの呉服売り場に紋付の新調を相談しに行った時の話です。男物の紋付袴を新調したいと言ったとたん、店員の様子が妙に変わって、売り場の奥に引っ込んだままなかなか戻って来ないのです。しょうがないので、売り場内をうろうろしていると、ひそひそ話が聞こえてきました。どうやらヤクザと間違われて敬遠されてしまったようなのです。結局その売り場では、取り扱っていないと丁重に断られました(そんな訳ないだろうに・・・)。

呉服屋でさえ、世間の思い込みはそんなものなのかというのがその時の感想で、いやはや情けないというか、呆れ返ってしまいました。今も同じかどうかは解りませんが、ともかく、別の老舗と呼ばれる呉服専門店を当たって、無事注文することはできました。ただ、そのお店も男物の紋付は滅多に注文を受けたことがない様子でした。

もちろん、そんなお店ばかりではないのですが、ただでさえ敷居が高いと思われている呉服屋に、清水の舞台から飛び降りる気持ちで入ったきもの初心者が、同じようにそんな対応を受けているとしたら、きものを着たくても買えないという心理になるのは無理もありません。せめて呉服屋の中だけでも、幸せな気持ちになるお店がもっと増えて欲しいものです。

ついつい、印象の悪かった話ばかりになりましたが、礼装用に白襟の肌襦袢を求めた別のデパートでは、用途を説明したところ、女性店員の方に「それはおめでとうございます。」と一言いわれ、恥ずかしい気もしましたが、やはり嬉しい気がしました。こういうちょっとしたことって、案外忘れ得ないものですよね。