丹前

丹前とは?

丹前(たんぜん)は寒い時期になると、温泉旅館などで出してくれる防寒用の着物のことです。普通は厚手のウール地で、対丈(ついたけ:はしょりや揚げがなく、裾までストレートに仕立ててあるきもののこと)になっています。こうした丹前は家庭着として、風呂上がりに浴衣の上に着て過ごすと非常にくつろげるものです。昔のお父さん達の定番スタイルとして知られていた丹前ですが、最近は滅多に見かけなくて淋しい限りです。私は冬になるといつも風呂上がりに丹前着ていますけど、ほんとに楽でいいもんですよ。


     
 厚手ウールの単もの      縮緬の丹前

丹前を着る時の帯は、普通写真のような細帯を締めます。

浴衣の上に着るのが普通で、温泉地と同じ格好を家でするわけです。寒い時は、この上
に茶羽織を着ます。茶羽織は丹前と同じ生地でお対(アンサンブルこのと)になったもの
が多いです。

右の三枚の写真は、珍しいものだと思うのですが、縮緬で袷に仕立てた非常に贅沢な
丹前です。これは古着屋で見つけた掘り出し物ですが、非常に軽くて着心地の良いものです。

  

丹前の由来

丹前は、江戸初期、湯女風呂(今のヘルスの元祖?)がブレイクした頃に、神田の掘丹後守の屋敷の前に出来た「丹前風呂」って湯女風呂がありまして、そこに集まる男伊達(遊び人)達の間でドハデなファッションが流行ったんですね。で、この男達が着ていた服装を「丹前」と呼ぶようになったんです。では、なんでそんなファッションが流行ったかと言うと、この「丹前風呂」に「勝山」っていう超売れっ子の看板湯女がいて、彼女が人と変わった格好が好きだったため、目を引こうと男達が競い合ったというわけです。多分その頃の丹前は現在のものとはかなりイメージが違うものでしょう。この辺のくだりは、井原西鶴の「好色一代男」にも描写が出てきます。「丹前風呂」というのは多分、丹後守の屋敷の「前」にできたから、「丹」+「前」=「丹前」としたのだと思われます。要するにファッションヘルスのお店の名前が和服の名称になっちゃたわけです。日本人もいろんな歴史を作ってくれますね。

褞袍(どてら)

丹前と同様の着物に「どてら」がありますが、一般には「綿入の丹前」のことを言うようです。同じ物を、関西で「丹前(たんぜん)」、関東で「褞袍(どてら)」と呼ぶそうです(関西では綿が入っていないのも丹前と呼びますが)。関東での丹前と褞袍の違いは、褞袍のほうが丹前より大ぶりで、厚綿入れに仕立ててあることで、本来はどちらも男物の和服です。