着物の本

このHP制作の参考文献としても活用した、和装・着物関連の雑誌・書籍を集めてみました。
現在では廃刊となっているものが多く、手に入りにくいものばかりですが、古本市や図書館などで見つかることがあるかも知れません。
これらの書籍によって、和装の一般論と知識を得た上で、和服を着ればいっそう楽しく和服生活が送れることと思います。
ただし、本に書かれていることが全てではありません。くれぐれもご参考までに。
※こちらには、昭和58年(1983年)~平成12年(2000年)までに出版された書籍を中心に掲載しています。

No.タイトル出版社著者価格発行年
1.男のきもの事典講談社監修:山中典士2,000円昭和58年
 きもの通になるための決定版
発刊当時「男の着物読本」と共に、男のきものを単独で紹介した本の中では最高に詳しい本の一冊。
この本には9種類もの男の帯結びや、普段着のきものも、丹前・甚平に至るまで幅広く紹介されて
いる。また、「男のきもの読本」には掲載されていない、きものの歴史についてが12Pに渡って解説されている。ただし、いずれも平凡な編集で、初心者が真に知りたいと思われる部分の多くが解説されていないのが残念。なお、監修の山中典士氏は、「装道きもの学院」の理事長を勤めた方。全123P。
2.男のきもの読本スタイル社 1,500円昭和56年
 男子専科別冊
「男のきもの事典」よりは多く出版されたよう?で、この本の所有者は意外と多い。呉服店などには希に置いてある店も。「男のきもの事典」とともに、これ以上に詳細な男のきもの解説本は、昭和時代においては私の知る限り出版されていない。なお、こちらはほぼオールカラーで、写真紹介も多く楽しい。いずれも再販を望みたい書籍である。
3.男のきものガイドブック古都通信社凛の会200円平成6年
 全18Pの小冊子で、角帯の一文字結びと袴の着装法のみ写真入りで解説。入手は通販のみだが、入手時すでに在庫希少で現在は在庫切れの模様。非常にローカルに作成されたものらしく、中年男性以上を対象とした和服のPR的な冊子で、とりあえずの内容。
4.きもの講談社 580円昭和44年
 着こなしと知識
ずいぶん古い本だが、かなり広範囲に渡り「きもの」を解説してあり、手入れや染み抜き方法の頁は参考になる。ただ、現代では当時の感覚による説明をそのまま受け止めにくい部分も。内容的にはやはり女性物中心であるが、男物の説明も多い方。私は古本市で千円で購入。
5.きもの"装いと仕立て”独習の本主婦と生活社  昭和52年
 主婦と生活11月号別冊付録
当時母親が買った雑誌「主婦と生活」の付録(本体の方は紛失)。思えばこれを手にした頃から、本格的に男のきものに憧れ、こうした情報を漁り始めた。これは、雑誌の付録にしては充実した内容で、カラーページで男のきものが解説されている。子供や男物の普段着のきものの仕立て方なども豊富に載っており、昭和52年当時はまだ一般家庭で和裁が日常的であったことを思わせる(実際には既にかなりすたれていたと思われるが)。我ながらよくぞ捨てずに今日まで残していたものである。
6.きもの全書婦人画報社大塚末子2,500円昭和51年 28版
 「きもののことならこれ一冊で全部がわかります。」という宣伝コピーで「現代きもの用語事典」の巻末にも紹介されている本。ただ、実際の内容は大半が仕立て方の解説で、「基本型の裁ち方から着こなしまで、詳しく丁寧に網羅。」とも紹介されているが、昭和50年代(初版は昭和31年)に2,500円という価格はかなり高価である。巻頭のカラー/モノクロの着姿写真が当時の時代を感じさせる。なお、この本の著者は非常に多くのきもの関連著書がある著名な仕立師の方。B5版。
7.現代きもの用語事典婦人画報社本吉春三郎 編680円昭和51年 4版
 初版は昭和45年。これも着物に興味を持ち始めた頃、初めて手に入れた用語事典。現在でも十分実用になるハンディな一冊。298P。
8.最新きもの用語事典文化出版局 2,524円1997年 7版
 初版は1983年。375Pと、必要にして十分な内容だが、カラーページなしで2,500円はちょっとばかり高い。現在でも入手可能。
9.時代風俗考証事典河出書房新社林 美一4,500円1977年 初版
 この本は、一般の風俗研究書とは異なり、あくまでTV・映画の映像文化を対象として書かれたもので、内容的には江戸風俗が中心である。著者はドラマの時代考証者として活躍した方。時代劇ファンにはたまらなくマニアックな一冊であるが、何しろ703Pにも及ぶ膨大な内容で、文献としても十分役立つ。もちろん、衣類については和装そのものの時代考察という点で、他の着物関連書籍とは一線を画する本。
10.日本人 礼儀作法読本マガジンハウス 1,000円1998年
 GULIVER MAGAZINE HOUSE MOOK  本屋で偶然見つけた本。あまり濃い内容ではないが、手元に一冊あると重宝するかも。特筆すべきは、着物関連のページで六尺褌が紹介されていること。お祭り用の六尺褌の締め方までイラストで説明してあるが、残念ながらちょっとわかりにくい。着物の着付けも写真入で解説されてはいるが、こちらもあまり上手とは言えない見栄え。細かいことはさておき、ともかく、ありとあらゆる「日本」が発見できる一冊ではある。
11.きもの歳時記平凡社山下悦子1,100円1998年
 初版本は1980年TBSブリタニカより刊行されている。作者の長年にわたるきものとの関わりを、四季折々の風情を通じて描いた随想。晴れ着から半衿・足袋に至るまで、「きもの」のよさと味わいが趣豊かに描かれており、実用書としても価値ある一冊。筆者の語る、きものは「作る人も着る人も見る人も楽しい」という言葉が、この本の全てを物語っていると言ってもよいだろう。きもの好きならぜひ目を通しておきたいお勧めの一冊。
12.きもの知恵袋平凡社山下悦子2,300円1987年
 きもの研究家として知られる著者が、きものに対する思い入れの深さをまとめた一冊。礼装から普段着のきもの、帯や足袋に至るまでの小物類、染めや織りの種類などのテーマ毎に、数々のアイテムの解説や、著者の思い出などのエピソードを綴る内容で、きものの歴史も勉強できる。袴や男帯など男もののテーマも豊富で、褌まで取り上げてある興味深い一冊。
13.きものの常識主婦と生活社 21世紀ブックス酒井美意子650円昭和52年 21版
 初版は昭和47の本で、私が本格的に着物に興味を持ち始めた頃に購入した思い出深い一冊。当時でさえ、この手の本の入手はかなり困難であった記憶が。この本は、文章主体で写真や図説はほとんどないが、一般的なきものに関するしきたりや常識(と云われていること)が網羅されている。男物に関する説明も載っている。
14.きもの・しきたり事典婦人画報社木村孝1,325円1996年 4版
 礼装からおしゃれ着まで
初版は1988年。本書は著者の「現代きもの心得」という本を全面改訂したもの。使用されている写真は、「美しいキモノ」誌からのものが多い。「礼装からおしゃれ着まで」とはあるが、解説の大半はやはり第一礼装、準礼装である。男きものの説明はわずか3頁と少ないが、現在でも入手可能な本の一冊。ちなみに、著者の木村孝(きむら たか)さんは、染色研究家として著名な女性の方。
15.新訂 きものの着付け保育社 カラーブックス232伊藤 有子500円昭和53年 新訂版
 初版は昭和46年で、カラーグラビアの写真などは、女性モデルの髪型などに年代を感じさせる。男のきものも紹介があり、紋付袴の着付け解説もあるが、この本ではなぜか袴下の角帯の結びが貝の口である(もちろん、袴下として貝の口を結ぶ場合もあるのだが)。なんの関係もないけれど、着付けモデルの男性の顔立ちはインパクトあり。
16.日本風俗の起源99の謎産報 (サンポウブックス)樋口 清之550円昭和51年 初版
 著者は「梅干しと日本刀」や「逆・日本史」などで知られ、日本史の世界では有名な方。この本では「礼儀作法とは何か」をテーマに99の項目が解説されている。「着物はなぜ右前に着るのか」
「なぜ足袋は男が黒で、女が白なのか」「帯はなぜうしろで結ぶのか」「ふんどし祝いと腰巻き祝いの話」などなど、興味あるネタが満載である。こうした情報ばかりをまとめた本は珍しいと思う。
17.「きもの」と「くらし」アジア経済研究所宮治一雄・大岩川嫩1,300円1993年
 第三世界の日常着
この本はどちらかというと、文化人類学的な見地に立って「衣服」の存在意義を論じたもので、実に世界34ヶ国もの国・地域の衣服を取り上げてある。日本の和服については補章と称する巻末に「日本人と洋装」と題して取り上げられてはいるが、タイトルの「きもの」は特に日本のそれを指してのものではないようである。しかしながら日常着としての衣服を中心に調査・研究がなされており、日本の和服を日常着という観点で、もう一度捉え直すには格好の文献ではある。ちなみにこの本によると、今から73年前の大正14年(1925年)には、実に99%もの日本人女性が和服であったのだ。反面男性はこの年33%が和服で、すでにこの時代から男性に関しては洋服が主流になっていた。なお、この調査は東京銀座でのものである。当時はまだ、家に戻ると大抵の男性は和服に着替えていた時代だったことだろう。今また、そうした時代が訪れてもいいような・・・と、勝手な妄想を抱かせる一冊ではある。
18.ます女きもの手控え源流社村林 益子2,200円平成9年 初版
 ーきものの道三代目の記ー
「きものを愛するすべての方に」という中綴じの表題で始まるこの本は、きものに興味ある人にはお薦めの一冊である。和裁を通じて深くきものに携わってきた、著者の思い入れ深く真っ直ぐな心持ちを感じながら、きもののよさを再認識できる好書である。男物のきものについても多く触れてあるのが嬉しい。
19.きもの自在晶文社鶴見 和子2,900円1993年 初版
 著者は南方熊楠、柳田国男研究で知られる社会学者。完全に一年365日和服で全ての生活を通している方で、きものを普段着として着こなす知恵と喜びがこの本には詰まっている。「日々、自在に生きたい。そう願ってわたしはきもの暮らしを楽しんでいます。」という著者ののびやかで気持ちのいい「きもの暮らし」が提案されている。70年以上もきものを着ている人物ならではの心意気が頼もしい、お手本のような一冊。男性で鶴見さんほどの方が現代にはどれほどおられるのか気になるところではある。
20.きもの大好き!KKベストセラーズ平野 恵理子1,370円1996年 初版
 「ああ、なんて気持ちのいい生活」と帯に書かれたこの本は、着物を自分で着られるようになってまだ3年という、著者の着物との付き合いが綴られている。たった3年でこんなに充実したきものの本を書いてしまうのも凄いと言えるが、何よりも身近で現代的な感性に共感を覚える内容である。残念ながら男性用の和服についての記述はないが、女性ばかりでなく男性にもお薦めの一冊。著者自身の手による、豊富なカラーイラストも楽しい。
21.幸田文の箪笥の引き出し新潮社青木 玉2,300円平成9年 16版
 平成6年芸術新潮に連載されていたものに書き下ろし内容を添えたエッセイ。母、幸田文のきものにまつわる様々なエピソードを、多くの写真と共に描いたもの。祖父、幸田露伴のエピソードなど、男のきものにまるわる話も意外と豊富。現代ではほとんど見られなくなった和服中心の生活感が我が事のように感じられる興趣溢れる一冊である。それにしても、こうしたきものに関するエッセイのような本は、
どうしてこうも女性の著者ばかりなのだろう。男性陣は、あとで紹介する池波正太郎のエッセイが有名だが、まるごと一冊きものの話というのはほとんど例がなくて残念。
22.きもの新潮社幸田 文2,300円平成8年
 作者の自伝的な半生を描く長編小説。日本人の多くが、まだきもので生活していた頃の日常を垣間見ることができる。初版は平成5年だが、現在は文庫本も発売されている。内容は「新潮」に昭和40年~43年にかけて断続掲載されたもの。
23.着物の悦び新潮文庫林 真理子476円平成8年
 きもの七転び八起き
初版本は、平成4年に光文社より刊行された。和服好きで有名な筆者の、きものにハマりゆくストーリー。きものに対する捉え方や感性は共感できるものが多いが、超老舗の呉服屋でのお買い物など、買物ぶりには一般庶民はついて行けない部分もある。しかしながら、そこはそこで、芸能人っぽくて良い。
24.大江戸観光ちくま文庫杉浦 日向子520円1996年 第5刷
 かつてNHKの番組「お江戸でござる」の出演時には、意外と洋服姿が多かったような杉浦さんであるが、結構こうした江戸関係の本も出されている。もともとは漫画家であるが、最近は江戸風俗研究家としての方が有名。この本でも、漫画家らしくユーモアたっぷりに「江戸」がテンコモリ状態で紹介されている。もちろん着物についても「着物ってキモチ良い」というタイトルで述べられている。江戸時代好きの人は必見の一冊。
25.江戸へようこそちくま文庫杉浦 日向子520円1997年 第14刷
 もう一冊杉浦さんの江戸本を。こちらは江戸という名の都市で起こった様々な出来事を、2名の作家との対談も織り交ぜて紹介したもの。著者の話す「江戸」とは、「江戸時代と呼ばれる二百六十年間の徳川政権下の日本」ではなく、「江戸時代の江戸という都市に起こったさまざまな現象」のことを指している。中でも、「きもの対談 不自由のすすめ」と題して掲載されている、作家の中島梓さんとの対談が興味深い。
26.男の作法新潮文庫池波 正太郎400円平成8年 37版
 初版本は、昭和56年ごま書房より刊行された。和服党で有名な作家のエッセイ。和服中心の内容ではないが、和服に付いての作者の薀蓄は貴重な情報源かも。私はこの本で初めて献上角帯の柄の上下に付いての指摘を確認した。ただし、表現的には、和服を着るのが当たり前の人が、こうするのが当たり前
といった調子なので、人によっては同調しにくい部分もあるかも。趣味趣向的な部分は、あくまで個人的な意見のひとつとして受け取ればいいだろう。
27.男のリズム角川書店池波 正太郎1,100円1995年
 初版本は、昭和54年に角川文庫より刊行された。これはその新装版。本の帯には「男と生まれついたならば、こう生きたい。」などど大仰なことが書かれているが、別の見方をすると著者の生きた時代と生活を、自身が振り返ったノスタルジアでもある。それはともかく、「着る」という章で和服についてのエピソードが綴られており、その内容は実に意外で興味深い。それは、戦前・戦後という時代背景の違いにより、事情はやや異なるものの、現代の我々と同じような和服に関しての悩みを著者も抱えていたという点だ。「着る機会がない」「街に着て出ると恥ずかしい」「思うような品が手に入らない」などなどである。池波正太郎ですら、そういう経験をしているということは、平成の現代、そしてこれから、和服はどうなる!?
28.鬼平を極める扶桑社(フジテレビ出版)1,400円1994年 初版
 1989年7月12日スタートの第一期TVシリーズから始まった、中村吉右衛門主演のTV時代劇「鬼平犯科帳」のガイドブック。原作はもちろん池波正太郎である。和服にうるさい原作者の作品ということもあってか、劇中に登場する通行人に至るまで、献上角帯の柄の上下もすべて正しく締めているのが確認できる。私は格別鬼平ファンでも吉右衛門ファンでもないが、時代劇という場を借りて、男性の和装写真が細かくチェックできるという意味で、貴重な資料となる一冊であろう。
29.鬼平を極めるⅡ扶桑社(フジテレビ出版)1,400円1995年 初版
 これは、「鬼平犯科帳」のガイドブック第二弾。映画版の鬼平も紹介されている。鬼平マニアは必携の一冊と言えよう。また「鬼平を極める」と共に和装ファンにも嬉しい一冊。ところで、TVの鬼平といえば、いつも出てくる軍鶏鍋を実に美味そうに食べるシーン。実際この番組に登場する食べ物で、「最も食べたいもの」ダントツの1位だそうで、これは納得。この第二弾には、劇中に登場する鬼平たちが、いつもたむろして軍鶏鍋をつつく店、「五鉄」のペーパークラフトがなぜか付録で付いているのが笑える。実際、江戸時代にも「立版古(たてばんこ)」と呼ばれる、和製のペーパークラフトが存在したとか。
30.雑誌「サライ」 1995年20号小学館 380円1995年
 この号のサライは割と有名なようである。特集は「普段着のすすめ 作務衣を着る」である。オールカラー14P。永六輔氏も登場し、作務衣と言えばの「笹倉玄照堂」も当然紹介されている。かなり詳細な内容で、作務衣に関してはこの一冊で十分といった感じ。バリエーション?として庄屋袴や野袴なども紹介されており、一般和服への方向性が提示されているのは正しい。他に足袋や袋物など、小物も紹介されていて充実した内容だが、わざわざ?9,800円もする肌襦袢が掲載されている点のみ減点である。
31.雑誌「サライ」 1996年7号小学館 380円1996年
 「文士に学ぶ着こなし術 和服でくつろぐ」と題した15Pの特集で男ものの和服を紹介。お店の紹介もある。内容は和服を普段着として愛し続けた作家たちの、個性溢れるエピソード。登場作家は次の11名。「池波正太郎」「獅子文六」「吉川英治」「吉田健一」「永井荷風」「井伏鱒二」「谷崎潤一郎」「太宰治」「山本周五郎」「室生犀星」「立原正秋」。
32.雑誌「サライ」 1998年4号小学館 430円1998年
 19Pものボリュームで「50歳からの男の着物 普段着の和服」を特集。浅く広くの内容だが、着付けや帯結びも写真で解説してあり、きれいなカラー写真で男物の和装品が堪能できる貴重な情報源。ただ、的を得ていない解説や、普段着というには高価すぎる着物や帯が多数紹介されているのには疑問が残る。50歳からきものを着ようという人は総じてリッチなのか?ともかく、こうしたメディアでの紹介は影響力が大きく、衣装提供などで商品掲載したお店には、掲載以来全国から驚くほどの問い合わせがあるという。
33.雑誌「自由時間」 第5号マガジンハウス 480円1991年 新年号
 「きもの特集 着物の基本は自然体」というタイトルで、あの大島渚氏が堂々の登場である。内容は、彼の語る着物論が見開き2ページ、残りは5人の着物好き男性がオールカラーで紹介されているもので、いちいち「大島渚さんからひとこと」というコメントが付いているのがいやらしい。しかも、紹介されている5名は、全員会社社長というのが最大の困ったちゃんである。この号以降、今日までに再び男のきもの特集があったかどうかは定かでないが、再びやるならぜひとも普段着のきものを庶民感覚で紹介して欲しいものである。
34.雑誌「モノ・マガシン」 No.325ワールドフォトプレス 590円平成8年 9-16号
 モノ・マガジンでも男のきものが特集されていたのをご存知だろうか?しかもなんとオールカラーで16P。特集タイトルは、「日本男児の常識、四季折々の旬を着る 粋に目覚める着物学」。さすがにモノ・マガジンだけあってか、かなり詳細に隅々まで解説されており、今年のサライの特集よりははるかに初心者に役立つ内容である。それもそのはず、参考文献にはここでも紹介した山下悦子さんの「きもの知恵袋」と木村孝さん監修の「きもの用語辞典」が明記されていた。ちなみに、モデルの男性が若くてスッキリした顔立ちなのも○。惜しむらくはご覧のとおり、メインの特集でないため、表紙に和服の
写真がないこと。ぜひ今度はメイン特集でやって欲しいものである。
35.雑誌「AMUSE」 1996年 No.8毎日新聞社 480円1996年4月24日号
 「男の気分一新 きものを着てみたい」というカラー14Pの特集で男のきものが紹介されている。文芸評論家の尾崎秀樹さんを始め4人のきもの好き男性が登場。2名は一般の方(自営業の方と、一般の会社員の方)が掲載されている点は評価したいポイント。あとの一人は表紙にも出ている俳優の平田満さん。一応購入の仕方から着付け、足袋などの小物なども紹介されていて初心者向けの編集。紹介されているお店はHPでも掲載している定番のお店が多い。なお、帯結びで紹介されている「片挟み」は、普通のとは違う「変わり片ばさみ」で、手の部分が貝の口のように帯の上側に出ているもの。
36.美しいキモノ婦人画報社 1,000円1987年6月1日発行
 ’87春号
「きものサロン」誌と共に、現役二大きもの雑誌のひとつ。創刊はこちらの方が早い。季節毎のテーマに合わせたグラビアが中心の構成だが、特集によってはかなりディープな着物情報が得られる。手持ちの「美しいキモノ」誌全てはとても紹介できないので、代表して’87夏号を紹介する。この号では、特別企画として「男伊達-夏はきものを嗜むべし」という、オールカラー全29ページにも及ぶ特集が目を引く(モデルの一人、加納 竜は懐かしい)。季節柄、夏物の紹介記事ではあるが、半襦袢や足袋などの小物類も紹介されている。この他、「九鬼周造と「いき」について」という近藤富枝さんのコラムも要チェックである。現在も数少ない貴重な着物情報源ではあるが、値段がやや高く、重いのが難点(’98年夏号は定価1,700円)。また、どちらかというと業界紙としての色合いも濃く、いまだにこの雑誌を知らない女性も多いらしい。
37.家庭画報特選 きものサロン世界文化社 1,800円1987年3月1日発行
 ’87春号
「美しいキモノ」誌よりも大判な誌面の有名着物雑誌。最近はグラビア中心の誌面になったような気もするが、この頃はグラビアページ以外に、足袋とか履物とかの和装関連情報を詳しく紹介した実用情報が多かった。この、’87春号には「きものの手入れと後始末」「風呂敷の美学」などを掲載。また、女性もののみであるが、「ランジェリー情報」として様々な和装下着が紹介されており、湯文字の付け方まで載っている。男物では、日本各地のきものの町を訪ねた「男衆と粋な遊び」というのが紹介されているが、内容的にはイマイチであった。ちなみに、’98年春号は定価1,950円と「美しいキモノ」誌よりも高く、こちらも雑誌としてはやや買いにくい。
38.ki-mono織研新聞社 1,500円1998年5月15日発行
 ’98夏号
完全なる業界紙だが、なぜか一般書店でも購入可能な季刊専門誌。従って、一般の消費者がわざわざ買って読むような内容ではない。しかしながら、今時のきもの業界の内部の様子を一般消費者も垣間見ることのできる貴重な一冊であるとも言えよう。また、きもの専門誌だけに、考え様によっては思わぬ情報をGETできることもある。’98夏号の拾い物は、きもの大好きというコーナーで紹介のマリンバ奏者 通崎睦美(つうざきむつみ)さんの、自転車にまたがっている写真。ハッキリした縞の着物に柄足袋と下駄、野球帽のようなキャップをかぶり、風呂敷き包みをたすきかけにして背中に背負っているといういでたちは、必見の価値あり。あと、JRA天皇賞のポスターに起用されたキムタク(木村拓哉)のイケテル和服姿。真っ赤な背景にワイルドな袴姿であるが、なんとなくポスターとしては地味に見えるのはなぜ?それにしても、この専門誌に幾多登場する、「きもの好事家 土性至凡」とは何者であろうか?
39.着物作品社鶴見和子1,800円1995年12月20日発行
 日本の名随筆 別巻58
作家や学者を中心とする著名人38名の著書の中から、着物についての描写や想いを書き綴った部分のみを集めて、一冊の本にした非常に珍しい編集の本。我々日本人と「きもの」の様々な関わりを、改めて知ることができるおもちゃの缶詰的な一冊。巻末の執筆者紹介と着物ブックガイドは貴重なデータ。以下は掲載内容の一部。


芥川竜之介-着物
西山之助-紋付袴礼賛
柳田國男-木綿以前の事
有吉佐和子-戦後派キモノ考
鶴見和子-きものは魂のよりどころ

40.男のキモノ神無書房笹島寿美2,800円1998年10月22日発行
 カラーページを開くと、いきなり裃姿の写真が掲載されているのに少し面食らってしまうが、この手のタイトルの本が出版されるのは恐らく15年ぶりのことであり、男性きものファンにとって、涙モノの一冊であることは間違いない。内容的にも非常に幅広く充実した内容で男のきものを紹介してあり、特にきもの初心者にはありがたい一冊である。ただ、裃の着付け方まで紹介してある反面(一体どんな時にこのページが活用できるのだろう?)、始終基本事項の解説と着付け方のマニュアル的な内容なので、初心者以外の方にはやや物足りないかも知れない(それにしても着流し姿の写真の角帯の位置、やっぱり高いと思うなぁ)。編集上の都合も関係するのであろうけれども、カラーページが少ないことや、着付けや帯結びの手順がすべてイラストになっているのも惜しまれる。なかなか存在しないジャンルの本だけに、そんな不満も残りはするが、いずれにせよ、男のきものが一冊の本として再び世に送り出されたことに心から拍手を送りたい。
41.別冊太陽 骨董を楽しむ-7平凡社 2,540円1995年11月26日発行
 縮緬古裂(ちりめんこぎれ)
木綿古裂と共に、眺めているだけでため息がででしまう永久保存版的資料。題名からも察しがつくように、着物というよりも、素材そのものの種類、形態、デザイン、文様などを中心とした美術鑑賞的志向の内容であるが、随所で紹介されている先人たちの知恵や工夫、そしてセンスとアイデアは脱帽ものである。掲載されている着物は女性ものが中心となるが、男物の長襦袢や子供もの、袱紗や風呂敷などの小物に至るまで多岐に渡り紹介されている。
42.別冊太陽 骨董を楽しむ-12平凡社 2,540円1996年7月20日発行
 木綿古裂(もめんこぎれ)
木綿だけでこれだけの種類とバリエーションが存在するのかと、改めて知ることができる一冊。個人的には豪華な縮緬よりもこちらの木綿の方が魅力的で、縞木綿の唐桟や様々な絣を見ているだけで、思わず袖を通したくなる衝動にかられる。さすがに木綿は庶民の生活の中に密着した素材だけに、紹介されているアイテムも野良着から火消し装束までと幅広い。日本人の持つ独特の感性と資質は、古くからこうした素材を着物という特有の形で身にまとい、生活してきたからこそ生まれたものではないかと真面目に思う次第である。縮緬古裂と同じく、いずれも少々値段は張るが、オールカラーでこの内容なら、資料として手元に置いておくだけでも手に入れておいて損はない一冊である(現在もまだ入手可能なはず)。
43.シネマきもの手帳同文書院森 恵子1,400円1999年4月8日第一版
 「和装が語る映画の魅力」というサブタイトル、帯に書かれた「和装の日本人はこんなにも素敵だ」「あらためて出会おう、日本情緒」との文字がまず目を引く。今までありそうでなかった、スクリーンの中の和装についてをテーマにまとめられた本である。登場人物が和装である映画は、時代劇を中心として実に数多く存在するが、平安時代から現代劇までを幅広く取り上げてある。衣装考証についての解釈だけでなく、実際に着物を着る時のヒントとしても巧みに視点を振り向けて語られているのがよい。きもの用語の簡単な解説や、ビデオ作品データなどもしっかり掲載されており、映像とともにじっくりと楽しみたい一冊である。この本では、「細雪」を女性のきものバイブルとするなら、男性のきものバイブルとしては「ぼんち」であると語られているが、確かにそうした観点で、これらの映画を改めて見なおすのも面白い。著者の森 恵子さんは、以前「男のきもの大全会」の取材も担当して頂いた、着物評論家としてもご活躍のベテランライターの方。
44.大江戸生活体験事情講談社石川英輔/田中優子1,700円1999年3月20日第一版
 この本は、ちょっと変わった江戸関連書籍である。2年間に渡り、実際に江戸の暮らしを体験したレポートに基づいて書かれた、江戸体験学と称する内容の本である。ここで取り上げたのは、もちろん「着物での暮らし」が書かれているからである。現代生活と照らし合わせた着物暮らしのメリット、デメリットが報告されてはいるが、意外なほどデメリットは少ない。着物を現代生活の中で着にくくしている最大の要因は、現代社会の価値観であるとしている点は、大いに共感できるポイントである。改めて我々の暮らし振りを見なおし、生活にゆとりと楽しみを見つける意味で、着物や下駄の活用をはじめとした昔暮らしを体験してみるのもよいだろう。
45.雑誌「サライ」 1999年11号小学館 430円1999年6/3号
 サライという雑誌は、男のきものをかなり頻繁に取り上げており、男性向け着物雑誌など存在しない中、和装ファンに人気が高いのは周知の通りだが、対象読者が中高年層なので記事内容に偏りがあるのは仕方ないところ。今回の特別企画「この夏は、粋に藍染めの浴衣を一枚」は、文字通り浴衣の特集である。内容的には有名各店の特徴ある技法と製品の紹介を中心としたアイテム解説で、決して着こなしの解説が中心ではない。それでもこういう記事を見るとつい一枚欲しくなってしまうのは、私だけではないだろう。笠仙の両面染(リバーシブル)浴衣、縞柄の浴衣などは普段着の木綿のきものとして活用するのも面白いと思う。浴衣はやはりシンプルな藍染めがよい。飽きがこないし、何と言っても見た目に涼やかである。また、きもの入門用として、値段も手頃な浴衣の活用をお薦めしたい。なお、この号のサライ・ブック・レビューでは、44.で紹介した「大江戸生活体験事情」も紹介されている。
46.男のきもの雑学ノートダイヤモンド社塙 ちと1,600円1999年6月11日第一版
 いつか着たい、そのうち着たい、
いますぐ着たい貴男へ。

このページでも紹介している、昭和56年発行の「男のきもの読本」以来、実に18年ぶりに発行された男のきもの専門書である。同出版社の雑学ノートシリーズとしてリリースされたため、このようなタイトルにはなっているが、まさに「新・男のきもの読本」と言ってもよいほどの充実した内容である。とはいえ、きものヘビーユーザにとって目新しい内容があるわけではない。しかしながら、きもの初心者がつまずき、思い悩むであろうポイントを丁寧に取り上げ、きもの生活を送る上で必要最低限のことを細かい所まで丁寧に解説してあり、まさに入門書としては申し分ないと思う。今日、これほど充実した内容で「男のきもの」を丸ごと一冊の本にまとめられた著者、塙さんに敬意を表したい。塙さんご本人の弁によれば、「内容的には、もっと歴史やウンチクを入れたかったのですが、本の厚みをあれ以上にするわけにはいきませんでした。なんとか、多くの方の目に触れればいいと願っています。」とのこと。

なお、この本の出版にあたり、ごく一部ではあるが、微力ながら私、早坂伊織も協力させて頂いた。本文中では「褌の締め方」と「袴でトイレ」の各情報を提供し、著者の塙さんとも何度かお会いして男のきものに対して感ずることを話させて頂いた。

47.江戸Tokyoストリートファッションギャップ出版遠藤雅弘1,800円1999年10月15日初版
  著者は、山本寛斎氏のアシスタントデザイナーを経て独立し、活躍中のファッションプロデューサー。山東京伝の作品と出会い、江戸っ子のファッションとこだわりを知って、江戸のファッション風俗を研究するようになったという同氏が、独自の視点で描く異色の江戸ファションガイド。非常にノリのよい文章と構成で、極めて現代的な観点で解説されているのが面白い。各章のタイトルやサブタイトルでは江戸文化をことごとくカタカナ表現してあり、異論もあるだろうがこれはこれで楽しめる。例えば、「八百八町の超ファッション」と題する章には、「アヴァンギャルドな江戸メイク」だの「江戸のインポートマニア」だの、「八百八町のカリスマ美容師」だのといった、ついつい開いてみたくなるタイトルコピーのセンスは素晴らしい。内容的には至ってマジメな研究成果であることが巻末の膨大な資料からも伺え、挿絵も豊富で、江戸の風俗文化をあっさりとチェックする入門書としてもGOODである。中でも興味あったのは、「江戸時代の人々は着物が心底好きで服としていたわけではなく、着物しかなかったから仕方なく着物を着ていたのだ。」といった意味の一節。確かに頷ける点は多い。ともかく、江戸時代の人々の方が現代人よりもはるかに自由奔放なファッションを楽しんでいたことが伺い知れる一冊である。この本を読んで、現代の和装文化をもう一度原点に戻って見直してみるのもいいだろう。
48.花のきもの講談社文庫宮尾登美子427円1986年10月15日初版
 著者の宮尾登美子氏は、小説「櫂」や「寒椿」の作者として知られる作家。本書は昭和59年9月に刊行された本の文庫版で、掲載作品の発表は、雑誌「マダム」に昭和57年10月号から58年9月号までの一年間連載されたもの。数々の花模様の着物の柄をテーマにして、著者のそれらの着物に対する愛着と思い出が綴られた半自伝的なエッセイである。昭和初期の戦中戦後の時代背景の中での、著者のきものに対する思い出話の中から、当時の日本人の衣生活の様子を知ることができる。江戸時代でもそうであったように、昭和初期の当時でも、着物を一枚新調するということは大そうお金のかかる事であった。本書では、男性のきもの描写は少ないものの、きもの好きなら誰もが共有できるようなきものの匂い」や「感覚」を覚えることであろう。大半の日本人は当時のようにきもの中心の衣生活に戻ることはないかも知れないが、きものという衣服の持つ深い魅力を見出せる一冊である。
49.きもの暮らしPHP研究所青木玉/吉岡幸雄1,500円2000年2月4日第一版
 着こなしの知恵と楽しみ
和服に格別の想いを寄せる随筆家、青木玉氏と、京都の染織家(染司よしおか)の五代目当主、吉岡幸雄氏が、伝統文化の歴史、美意識、愉しみ方を語る対談もの。青木玉氏の母は、幸田文氏であり、祖父は幸田露伴であることは有名な話だが、この本に収められた二人の会話の中にも幾度となく両名のエピソードが語られている。吉岡氏は、専門家であり職人としての気質ある意見を数多く述べているが、時として青木氏はこれを実に現実的に受け応えしているのが印象的である。この本を読む限りでは、青木氏は吉岡氏以上に「きもの」という衣服の「ほんとう」を知り尽くし、現代におけるきもの生活の現実的課題を実直に捉えて語る、実に「ハナシのワカルおばさん」である。冒頭の「はじめに」の中でも次のように語っている。「着てみなければ、きものの持つよさも楽しさも解ってもらうことはむずかしい。・・・折角きものを着はじめた人たちがいるのだ。たとえ取り合わせがちぐはぐであろうとも、着馴れることが第一であり、そうなれば自分の好みを持つことができるようになる。」と。まったくおっしゃる通りである。
50.きものと文様講談社長崎巌2,800円1999年10月25日初版
   東京国立博物館工芸課染織室長である、著者の長崎氏が解説する、染色文化を中心とした、どちらかというと学術的色彩を持つ本。江戸時代を核にして、日本の染織技術における海外の影響や、文様・織り・染め・形態等から「きもの」というアイテムの持つ価値観や美意識が述べられているといった内容。読み物とは言えないまでも、かなりわかりやすい口調で述べられており、関連資料として手元に置いておくと役立つ一冊となるであろう。
51.十二か月のきもの世界文化社中谷比佐子1,400円1999年10月1日初版
 おしゃれなきもの教室
きものジャーナリストとしてご活躍のこの方も、数多くのきもの関連書籍を出されているお一人。この本はタイトル通り12か月の季節に分けたきものの選び方、着こなしなどを著者流の解説で説明したきもの初心者向けの入門書。残念ながら男性のきものについては一切触れていないが、ちょっとした工夫やきこなしのポイントなども随所で開設されており、初心者には多分に参考になるだろう。小ぶりな装丁の本であるが大半がカラーベージで構成されており、見ても楽しめる内容となっている。

実はこの本を取り上げたのは、第2回の「男のきもの大全会」にご参加頂き知り合った、東京手描き友禅作家の成瀬優さんが「注目の染織家たち」というコーナー(P.92)で登場されているのを偶然見つけたから。成瀬さん、次回出版物などのメディアにご登場なさる時は、ぜひ着物姿でお願いしますね(本書ではネクタイ姿でした)。
52.玉緒の「着物」の喜び光文社中村玉緒1,200円2000年4月25日初版
 ご存知、中村玉緒さんの着物人生を凝縮した一冊。家庭で、お仕事で、それぞれに数え切れないほど着物を着て来られた玉緒さんが、きものにまつわる思い出やエピソード、読者へのメッセージなどを自由に伸び伸びと語られています。ほんとうにきものが大好きな玉緒さんならではの、楽しく興味深い話が満載です。そんな玉緒さんも、「着物はもっと自由に、楽しんで着て欲しい。」と、読者に語りかけています。そう、難しく考えないで、きものを自由に楽しみましょう。