角帯の柄の上下について
男性が和服を着る際、ことに角帯の締め心地というのは、実に気持ちの良いもので、私の場合、この感触を得たいがために和服を着ると言っても過言ではないほどです。下腹にギュット締めた帯がしっかりと落ち着いて決まった時、何とも言えず身が引き締まる思いがするものです。また、下腹に適度な圧力を加え、内臓を上に持ち上げるようにすることは、医学的にも健康上良いことなのだそうです。
博多の献上角帯という帯がありますが、この縞柄には上下の向きがあるのをご存じでしょうか。個人的には、単にデザイン的に見ても、これが逆だと不安定に思ってしまいます。この角帯の上下についてを説明している書籍や文献にはほとんど出会えることがありませんが、締め方同様、大事なポイントです。ただ、いずれの説明も、「絶対こうでないと駄目」と言うわけではなく、あくまで標準形として捉えれば良いでしょう。デザイン的な好みの相違などにより、逆向きに締めたとしてもそれはそれで否定するものではありません。献上博多をはじめ、様々なタイプのがたの上下の決め方についてをご紹介します。
献上柄の角帯の上下
まず、博多織で有名な、献上柄の角帯の上下を見てみましょう。なぜこれが正しい向きなのかというと、わかりやすく言えば、博多織のオリジナルデザインを生み出したデザイナーの残した意匠だからです。ちなみに、作家の池波正太郎氏は、自身の作品を映像化する際には撮影に立ち合い、わずかに映る通行人の帯が上下逆であったときにはすべて撮り直しを指示したというエピソードもあり、彼はエッセイの中で、「献上柄の上下を間違うのは教養を疑う。」とまで記していますが、そこまでとは言いませんが、やはり献上柄の上下は逆だと落ち着かない気がしてしまいます。
これが逆の人結構いませんか?上の写真のように、はっきりした色の細い華皿模様がある方が上で、太い地模様がある方が下になります。ついでに言うと、TVの「鬼平犯科帳」で中村吉右衛門の鬼平がしている幅広の角帯みたいに、下側の帯と同色の地模様の部分も色があり、模様がダブルになってるものもあります。献上柄は独鈷(「とっこ」または「どっこ」:仏具が起源とされる文様のこと)の文様によって、一本独鈷、三本独鈷、五色献上などの種類がありますが、一般的に献上は「色付模様の細い方が上」という風に覚えればいいと思います。
ちなみに、この献上柄のある方が帯地の表、無地や中央に一本線がある方が裏、ということになります。献上柄に準じたたぐいの模様の帯なら、この上下判断で大丈夫でしょう。いずれにしても、帯を買う時には、お店の人に確認しておくのがいいかと思います(角帯の柄の上下を答えられないお店も結構ありますが)。
では念のため、よくある柄で上下を間違えそうなものを、もう一つ紹介しておきましょう(私は変り献上などと呼んでいますが、正式名称は知りません^^;)。下の写真の通りです。
↑細目の縞模様などある方が上↑
↓帯地の色、地紋のある方が下↓
普通こうした帯は、柄のついている部分の幅より、無地に見える部分の幅の方が狭くなっています。模様の幅や横縞の数などは様々ですから目安として見て下さい。これら以外の、全体が細かな横縞模様や無地系の帯、上下の柄が全く対象のものなどは通常上下を気にしなくていいです。
縫い合わせのある帯の上下
角帯の中でも房付きのものは、高価なものでもカジュアルな装い向きとなりますので、フォーマルな場でこれを用いる場合には、房を内側に折り込んで使いますが、房の部分をハサミで切り落として始末してもOKです(帯布の端は内側に折り返し、場合によってはきちんと縫い合わせて始末します)。房自体が付属する意味は特になく、恐らく商品的に房のある帯の方が、高級感があると考えられたからではないかと思われます(実際に使用するとこの房が殊のほか邪魔になるのですけれども・・・)。
帯を二つ折りにして使うタイプの角帯や、布を縫い合わせて作ってあるような帯では、折り目(輪になる方)が下になります(注:折り目を上とする解説も存在するようですが、実際に締めた時、個人的には折り目を下にした方が締めた感じが良く、間に切符や紙幣などちょっとしたものを挟むのにも都合が良いのでこの向きを採用しています)。このように、帯の種類によっては模様以外で見分ける方法もあります。
↑閉じ合せる方が上↑
↓輪になる方が下↓
帯の端の織り残しの始末方法
帯の端が柔らかくなっているの部分がある帯がよくあります。この部分が長くてそのままであれば、帯地の内側にきれいに折り込んでから使います。特に「手」となる側の端がそのままだと、結んだ時に垂れてしまい、見栄えもよくありません。角帯の帯地は、綿などの帯でも、通常は袋というか筒状になっているので(女性の袋帯と同じ)、その筒の裏側に折り込むようにします。
(1)この部分を内側に折り込む (2)折り込んだところ