3.和服・和装が敬遠される理由

以前ホームページで行ったアンケートによると、「和服・和装が敬遠される理由」として群を抜いて多かった意見は「価格が高い」というものでした。その他、「着用方法がわからない」「着る機会が無い」「着て行く場所がない」「着ている人が少ない(目立つ、恥ずかしい)」「活動的でない、動きにくい」「手入れに手間やお金がかかる」「面倒な決まりごとが多い」「買いにくい、手に入らない」「欲しいジャンルの品がない」等となっています。

実は私も、和装が普及しない最大の原因は、やはり価格の問題を第一としたきものの商品性にあると考えます。逆にそれ以外の着付けや着る機会など、理由として挙げられているほとんどの問題は、着る側の人間の思い込みであったり努力事項であったり、果ては言い訳や我侭であったりと、着る側に大きく依存する問題であり、着る人の意識の持ち方によって解決可能なものばかりとも言えるのです。

ただし、価格についての問題は、単に「価格が高い」というだけでは実に多くの誤解が生じますから、少し慎重に話さねばなりませんが、これは個々の現行商品の是非についての話ではなく、きものという商品ジャンル全体に対するイメージとしての話なのです。価格や品揃えについての問題だけは、消費者としての一個人が努力して解消するには無理があり、必然的に着物を提供する業者側の努力事項だと言えますが、これは単に安価な商品さえあれば良いという問題でもありません。また、高級呉服と呼ばれる種類の商品があまりに高価で手が届かないから、それら自体を低価格にして欲しいと望んでいるわけでもないのです。つまりは商品バランスの問題で、本格きものに移行する前に、お手軽きもので練習したいと言うごく自然な消費者心理を適える商材が、あまりにも不足しているということなのです。

これらのことを詳しくお話する前に、先ほどご紹介したアンケート結果を含め、きものユーザがどのような意識を持っているのかを、次のコラム内にまとめてみましたので目を通して見て下さい(※完成稿ではこのコラムもカットされています)。これは、「男のきもの大全」ホームページで実施したアンケート結果のごく一部ですが、実に興味ある結果となっています。なお、掲載した内容以外にも、全部で三十一もの問いに対する詳細な集計結果をホームページに掲載しておりますので、ご参考までにぜひそちらもご覧下さい。

回答者はいずれもきもの好きな方々であることに間違いありませんが、それを差し引いても、普段着やファッションとしてのきものを、年中、それも毎日でも着たいと思っている人がこれほど多いとは私自身も驚きでした。みんな普段着のきものが欲しいのに、事実上ほとんどそれがないのです。このことはきっと多くの人が残念に思っていることでしょう。

こうした事実を考えると、和装が普及しない最大の理由とは、普及品としてのきものが無いに等しいからという、至極当然なことと言えそうです。もちろん他にも理由はありますが、和服は高級品であるから高価だと言うイメージがあまりにも強く、やはりこのことが、多くの人が和服を身近なものとして感じ取れない理由の筆頭であろうと思われます。

もちろん、染めや織りをはじめとする多くの加工技術を駆使し、人手による気の遠くなるような手間のかかった製品としての着物が、一枚数十万も数百万もの値段がついたからとて、それが不適切な価格であるとは言えません。なぜなら、コストの大半は人件費であり、高級品の多くが、完成までに半年から一年以上もの時間を要する手作業にるものであることを知れば、それも無理からぬ話だからです。結局、製品の値段の違いには、こうした手間の違いが顕著に表れているのです。そのため、無理な原価圧縮を行うことは、品質低下を招くだけでなく生産者の悲劇にも繋がることになります。このことも、多くの伝統工芸品が抱える大きな悩みの一つといってよいでしょう。

しかしながら、そうした種類の着物しか生産できないとなると、自然と着る人は限られてしまうので、低コストで提供が可能な普及品の開発こそが、和装自体の存続にとって大きな鍵となることは間違いありません。どんなに高価な商品が売れる現実があろうとも、やはり常識的に考えて、数十万~百万円を超えるものを日常の「衣服」として受け入れるには無理があります。車の購入に例えると、免許取立ての初心者ですら日本中何処へ行っても、メルセデスやフェラーリのような高級車以外、選択の余地がないのと同義なのです。

きものも、個人相手に販売することを前提としたコンシューマー商品であることを考えると、やはり買って着る側の消費者にそうした選択の余地がなければ、多くの人が気軽に袖を通すことは望めないでしょう。つまり、最高級な種類の着物と、かつては実用呉服とも呼ばれた日常着としての着物やファッションとしての着物とを、同列に語ること自体がそもそも混乱と誤解を招くのだと思うのです。日常の衣服としても選択可能なジャンルのきものがあって初めて、より上位の本物と呼ばれる種類の着物を望むようになるという、ステップアップの楽しみが生まれるのです。きものが好きになれば、間違いなくそうした嗜好で奥深いきものの世界に入り込んでしまいますから、必然的にマーケット自体も広がることになると思われます。もっとも、マーケットとしては、男性をもっと本気でその対象として欲しいとも叫ばねばなりません。きものは決して女性だけのものではないのですから。

こうした現状は、あれほど夏には若者達の間で浴衣が定番ファッションとなっているにも関わらず、浴衣の次に着る定番商品が見当たらないことにも関係しています。いずれにしても、着物を提供する側の業者が対応すべき最優先課題は、入手性の問題やメンテナンス、アフターサービスの問題を含め、「ユーザーニーズに応える」ことに尽きると言えます。

つづく

2002.10.20掲載